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Believe

さよなら



2003年9月30日。
忘れもしない。

4日遅いけれど誕生日のお祝いをした。
4日前は彼が主宰していた公演の本番だったから。
この日のために私はバイトをしてお金を貯めた。
ケーキも作った。プレゼントも、色んなお店を歩き回って用意した。
盛大に祝ってあげるはずだった。
とびきり幸せな1日になるはずだった。

彼の家に行き、プレゼントを渡して二人でケーキを食べた。
夕方になり、ご飯でも食べに行こうとはしゃぎながら外に出た。
その時エレベーターから出てきた女の人と目が合った。
どこかで見たことのある顔だと思った。
その人は何故か一瞬ためらい、けれどもこちらへ歩いてきた。
そして彼の前で止まった。
彼女は言う。
「忘れてた服、取りに来た」

二人で部屋に入って行った。
一人置き去りにされる私。何が起こったのかわからない。
この間の公演の衣装さんか何かだろうか。
しばらくして女だけ出て来た。
すれ違い様、私の顔も見ずにその人は言った。
「あたし、彼のセフレなんです。ごめんなさいね」

その瞬間、私の中の全てのパズルが繋がった。
頭痛がする。キーンと痛む。涙目になった。
女は何食わぬ顔でエレベーターに乗り去って行った。
そういうことだったのか。
私は、今までずっと不安だった。
その不安が的中したのだ。

彼が来て私の肩に手を置いた。
「昔付き合ってた子」と、震えるような声で言う。
どうして震えてるの?
その手を払いのけて私はマンションの廊下を走った。
すぐに捕まえられた。
「あの人、セフレって言った」私は座り込んで泣いた。
彼の携帯にあの女からのメールが入る。
「『死ぬから』って」
・・・・・・。

部屋に戻り、私達は話し合った。
彼はこんな風に言った。
「彼女とはお前と付き合うことになった時点で別れた。でも3、4ヶ月前、不審者に襲われそうになって
自分に助けを求めてきた。それから度々連絡を取ったり会ったりしていたけど、全部彼女から求めた
ことで自分からはしていない。ただ、夜中に徘徊したりパニックを起こしたり、不安定になっている彼女
を放っておけなかっただけだ。
男女の関係は絶対にないから、信じてほしい」
その間に何度もあの女からの着信が入ってくる。
けれども、電話に出ようとしてもすぐに切れてしまう。
パニックを起こしているのだと彼は言った。

「お前がもう嫌なら、離れてしまうのも仕方ない」とぽつりと言う彼。

矛盾だらけのその証言を私は信じるしかなかった。
仲直りをして一緒にご飯を食べ、その日は不安だからと半ば強引に彼の家に泊まった。

朝の4時。
何度もチャイムを鳴らす音が聞こえる。
あの人がやって来たのだ。
薬を大量に飲んで。
彼は彼女をなだめて、マンションの下まで送りに行った。
私は部屋で大人しく待っていた。
彼が戻って来た。
でも彼女も後から戻って来てしまった。
持っていた睡眠薬を全部飲み干して、朦朧とする意識の中で。
彼はもう一度、彼女を送りに行った。
その時どんな言葉が交わされたのか私は知らない。

何日かして、彼から「もう彼女とは会わない」と連絡が来た。
私は安心した。安心したけれど、不安を拭い去ることは出来なかった。
1ヵ月後、不安に耐えかねて彼の携帯を覗き見た。
受信ボックスには、あの女からのメールと私からのメールが交互に入っていた。
彼は私に嘘をついてあの女と会っていたのだ。

どうすればいいのかわからなくてぐちゃぐちゃになった。
最初に別れを切り出したのは私。
でもやっぱり別れたくないと言って泣くと、彼は「別れよう」と言った。


程なくして、臨床心理学専攻の大学院生に相談してみたところ、「その女の人は境界性人格障害の疑いがある」とのことだった。
私は初めて聞いた、何だかよくわからないその病気を憎んだ。
あの女のことも憎んだ。もちろん彼のことも憎らしかった。
あの頃の私にはとても理解出来なかった。
そんな病気のことも、あの女のことも、あの人のことも。
あんたも、あんたも、もう解放されたのかも知れないけれど。清々したのかも知れないけれど。
あの日から、あの日のせいで、私には地獄のような生活が始まったのだから。


4年が経ち、今では何故か私が「境界性人格障害」と診断されている。
休学して留年して、普通の人間としての生活からは遠ざかってしまった。
リストカットやオーバードーズもして、いわゆる“メンタル系”と呼ばれるところにいるようになった。
沢山の時間が過ぎた。あの頃の私からはとても考えられないような生活をして、想像も出来なかった
人生を歩いている。
考えていることも、あの頃とは全然違う。
あの頃は知らなかった人達と付き合い、あの頃は知らなかった勉強をし、あの頃は知らなかったものを
好きになっている。
けれど、あの日のことを、あの人のことを忘れた日は1日だってない。

彼は「苦しい」と言った。
自分が何をしてもお前は許してくれるのを知っている。それが苦しいんだと言った。
私にはその意味がわからなかった。ただただ愛することが正しいのだと信じていた。
あれから4年、フッとその時のことを考えた。
彼が苦しむのも無理はないだろうと思った。
あれだけの愛情を注がれて、しんどくならないはずはないだろう。
18歳の私には到底わからなかったこと。
22歳の私になら、あと半年足らずであの頃の彼と同じ23歳になる私になら、少しはわかるような気がした。

あの女の寂しさも理解出来るようになったのかも知れない。
今の私と同じような、言い様のない寂しさや不安を抱えていたのかも知れない。
彼もきっとそうだったのだろう。
「しんどい」と、私に直接漏らした日だってあったのに。
私はそれを受け入れられるだけのものを持っていなかった。
責めることしか知らなかった。
今はそんな風には思っていない。
思い通りに進めない歯痒さも、真っ直ぐに生きられない弱さも、純粋なものを見たくない狡さも、
今ならわかるような気がするよ。
どうしようもない空虚感だって。


ごめんね。
ありがとう。


そんな風に思えたことを受け入れて、次の人生を歩む方がいいのかも知れない。
でもやっぱり過去の幸せな時間に埋もれていたいと思うこともある。
どうすればいいのか私にはわからないよ。
わかったとしても、もう前には進みたくないよ。

同じ年齢になんてなりたくなかった。
このまま永遠に過去を抱き締めて死ねればいいのに。
幸せな思い出だけを携えて、永遠に止まっていられたらいいのに。


最後に会った時「お前一人を大事にしようと思うほど好きにはなれなかった」と彼は言った。
「もう謝らない」とも言った。
もう二度とあの頃には戻れない。
毎朝目覚める度に彼はもういないという現実を突き付けられた。
今は朝起きたって、そんな思いをすることはない。
でも私はどこにも行けない。
どんなに歩いても、また同じところに戻ってきてしまう。
あとどれだけ同じことを繰り返せば私は死ねるんだろう。


今でも愛してるのに。
でも、どんなに探しても、もうあの頃の彼はどこにもいない。

私は濃姫になりたかった。
彼女みたいに、包み込むような愛情で彼を愛してあげればよかった。

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プロフィール

a_hoyden(ミキ)

Author:a_hoyden(ミキ)
大阪府在住。30歳。
大学に5年通い、フリーター・医療系の契約社員を経験して、ふらっと結婚。
医療事務として真面目に働きつつ適当に家事やってます。
今は休憩中ですが、関西小劇場でお芝居をしています。

*好き*
中村中・Cocco・鬼束ちひろ・くるり・堺雅人・沢村一樹・佐々木蔵之介・オードリーの若林
いくえみ綾・小花美穂・「NANA」・さくらももこ・山田詠美・乙一・「八日目の蝉」・「17歳のカルテ」・南条あや
とろけるチーズ・サーモン・いくら・たらこ・モスバーガー
買い物に行った時にかわいい店員さんがいると嬉しい。

*嫌い*
グリーンピース
できちゃった結婚
自分の好きなものを馬鹿にされること
わかってもないのにわかったような口を聞く人
綺麗事

大学時代は実験心理学を専攻。
幼少期の母子関係が現在の対人関係にどのように影響しているかについて卒論を書きました。

境界性人格障害と診断されたことがあります。
リストカットやODをしていた時期もありました。
今は・・・何なんだろう。よくわかりません(笑)

とりあえず変な奴です。

*monologue-b*

*monologue*
以前使っていた日記です。

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