朝、まだ薄暗い時間だった気がする。
彼が寝ているのを確認してベッドを抜け出し、無造作に置かれている携帯を手に取った。
私のではなく彼の携帯。
そのままバスルームに入って鍵を閉めた。
受信ボックスを見ると、私からのメールとあの女からのメールが交互に残されている。
寒さで全身がガタガタと震えた。
その携帯を私のカバンの中に入れて部屋へ戻り、氷のように冷たくなった手を寝呆けている彼の体に押し付けた。
どこかで朝食をとるため出かけようとした時、それがないことに彼は気付いた。
自分の荷物の中から取り出して見せた。
無言のまま流れる気まずい空気。
私は捨て台詞を吐いて部屋を出た。
続いて扉のガチャリと閉まる音。
追いかけて来るのだと思い慌てて階段を駆け降りた。
そうではなかった。
建て付けの悪い扉を閉め、彼は部屋の中に戻っただけだった。
吐く息が寒さで白くなる。
駅までの道を小走りに進みながら「うそつき」とメールを打った。
返事はなかった。
数日後、彼は事実を認めた。
私は泣いた。
彼はそれを見て、周りに人がいるからやめてくれと言った。
そういう奴だ。
その言葉を無視して、ふらふらになるまで泣いて、泣いて叫び倒した。
あれから4年。
まるでつい先日のことのようだ。
同時に、そんな出来事はなかったかのようにも思える。
私は必死だった。死に物狂いだった。
今となってはふざけた青春映画のようである。
昔も今も私は馬鹿だけれど、あの頃より少しは物事を知っている。
別れた日、私は彼のことをずっと好きでいると言った。
それから数ヵ月後に会った時、彼は、私一人を大切にしようと思うほど好きにはなれなかったと言った。
私は自分の発した言葉に、彼が放った言葉に、ずっととらわれ続けてきた。
彼のことを忘れた日は1日もなかった。
今も忘れることはない。
そして、これからも忘れずに生きて行くんだろう。
もし今彼に会えたらどうしようか、と考える。
でも、出来れば、もう二度と会いたくはない。
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